


犬や猫でのインドシアニングリーン蛍光法|腫瘍の診断・治療への応用
目次
インドシアニングリーン(ICG)蛍光法とは?
インドシアニングリーン(Indocyanine Green)は、もともと人の医療で肝機能検査や血管・リンパ管の可視化のために用いられてきた薬剤(色素)です。ICGは血液中のタンパク質と結合して近赤外線を当てると蛍光を発する特徴を持っています。一般的に、可視光線よりも波長が長い近赤外線は体内組織を透過しやすいため、専用のカメラや装置を使うことで、通常の目視ではわからない情報を“リアルタイム”に観察できるのです。
犬や猫の治療で使われる場面
外科手術(腫瘍切除など)のサポート
・腫瘍の正確な位置や広がりの把握
ICGを注射して専用の機器を用いると、腫瘍がどの程度の範囲まで及んでいるかを確認できる場合があります。とくに臓器内の血流や組織の状態が手術中に可視化されるため、より正確に切除範囲を見極めやすくなります。
・術後の評価
腫瘍を切除した断端(切除部分の境目)に腫瘍細胞が残っていないかを、蛍光の強弱で推測できることがあります。結果的に再発リスクを減らすことにつながる可能性があります。
リンパ節転移の確認:センチネルリンパ節の同定
がんが最初に転移しやすいリンパ節である「センチネルリンパ節」をICGでわかりやすく表示できる場合があります。通常は、腫瘍が発生した場所に近いリンパ節(所属リンパ節)を切除しますが、ICGを用いることで本当に一番最初に転移を作るリンパ節(センチネルリンパ節)を見つけることができ、極めて早期の病変の発見やより正確な病期の判定ができることがあります。
血管や血流の評価:血流障害の診断
術中に血管の状態や血流がしっかりと保たれているかを可視化し、異常があれば早い段階で対処できるようになります。

腸管を切除した後に吻合する(つなげる)際に血流の有無を評価している様子
メリットとデメリット
メリット
低侵襲かつリアルタイムでの評価
ICGは比較的安全性の高い薬剤とされ、点滴や注射で投与後すぐに観察が可能です。身体への負担を最小限に抑えながら、リアルタイムでの評価が可能です。
手術精度の向上
肉眼ではわかりづらい細かな病変や血管走行を、蛍光画像で確認できるため、より正確に手術を行いやすくなります。
再発予防が期待できる
術後に腫瘍組織が残存していないかをその場で確認しやすく、残存した場合には追加切除など、迅速な対応が可能です。
デメリット
ヨウ素アレルギーへの配慮
ICGはヨウ素を含むため、過去にヨウ素系造影剤などでアレルギーを起こしたことがあるペットには注意が必要ですが、非常に稀です。
すべての腫瘍が蛍光を示すわけではない
一部の腫瘍はICGを取り込みにくい場合があり、症例によっては思うように効果が得られないこともあります。
装置の普及度
ICG蛍光観察には専用の近赤外線カメラやモニターが必要なため、すべての病院で実施できるわけではありません。高度医療を取り入れている動物病院や大学病院で行われるケースが多いですが、当院では専用の機器を導入しているため実施可能となっています。
まとめ
インドシアニングリーン蛍光法は、今までは見えなかった病巣や血流を“見える化”し、診断と治療の精度を高める新しい技術です。特に、がん(腫瘍)の手術では取り残しを減らし、再発リスクを下げる助けになると期待されています。
一方で、技術や機器の導入が必要なため、全ての病院で広く行われているわけではありません。また、ペットの状態や腫瘍の種類、アレルギーの有無など、適用可否を慎重に検討する必要があります。
ワンちゃん・ネコちゃんにとって最適な治療を行うには、手術前に獣医師としっかりと話し合い、メリットやリスクを十分に理解することが大切です。高度医療の1つの選択肢として、お気軽にご相談いただければ幸いです。